医学における電子出版と著作権ー現状と課題


96年11月28日医療情報学会ワークショップより

1. はじめに

このワークショップは「医学学術情報における電子的公開研究会」を中心に企画した。昨年の医療情報学会で、学会の演題をWWW(World Wide Web)で公開することなったが、この企画に対して一部の会員から業績としての疑問が出された1)。それに対して意見を交換した結果、他にも雑誌の著作権やデジタル化の権利関係などの問題が出現する可能性が指摘された。
また、一般会員にもその問題の認識はあっても解決方法が見いだされなかった。特にマルチメディア化及びインターネットの進歩により出現した新たな情報交換システムが、十分な利用ガイドラインがないままに広がり、混乱を来す可能性があることが認識された。よって新たな情報メディアに対応した学会の情報交換のガイドラインを作成すべく、昨年11月にわれわれはこの研究会を発足させた。

2. 活動予定

昨年発足後、1年間かけて現状の調査を行った。今回このワークショップで会員の方々へ現状を報告するとともに討論を行う。また、国際的知的所有権の取り決めであるベルヌ条約の改正が本年末に予定されているので、その結果を受けて、来年の医療情報学会でガイドラインの提案を行う予定である。

3. 現状

従来から知的所有権や学術情報のあり方は問題となり、そのルールづくりも繰り返し行われてきた。まず、国際的著作権に関してはベルヌ条約と万国著作権条約があり、この条約に基づいて日本国内では著作権法が決められている。また、医学出版についてはバンクーバースタイルの中に著作権に関して規定されている2)。
これらの取り決めは、コンピュータのマルチメディア化とネットワークの普及以前の取り決めであったので、この数年ネットワーク関連を中心に取り決めの整備が急がれている。
その変化をまとめるとマルチメディア化とネットワークの普及の2点に絞ることができる。マルチメディア化により音楽や出版物などメディア単位で決めていた知的所有権の基本が大きく変化し、ほとんどがコンピュータのファイルとして取り扱う事が可能となった。また、インターネットの普及によりコンピュータでは国境が無意味となったため、新たな国際ルールづくりが必要となった。さらにインターネットでは、従来では問題とならなかった個人による情報発信が容易にできるようになり、従来の法体系では規定がはっきりしていない。
この変化は医学界にももちろん及んでいる。従来、医学情報の主要メディアは学術雑誌と学会発表であった。しかしインターネットのWWWやメーリングリストにより同様の情報伝達及び交流が可能となった。自然な流れとしてこのインターネットでの情報公開や流通を正式な学会活動として認めるべきであると考えられる。
従来の学術情報の主体である論文発表と学会発表について整理すると表1の流れになる。
この中でどの時点でどの様な権利が発生し、どの時点で権利の移動が行われるかなどについてはほとんどの研究者が知らない。また、今までも不明確であった。(図1)

4. 課題

現状から課題を整理すると以下の項目が上げられる。
これらをキーワードにして次の方々から話題の提供を行う。

5. 発表者

  1. 学術情報の電子化の方向と問題点の紹介 産業医科大学 八幡 勝也
    今回のワークショップの総論的な紹介をする。その中で医学情報のデジタル公開に伴う論点の整理を行う。

  2. インターネットの著作権の動向 横浜国立大学 吉田 大輔
    法学者の立場からインターネットに関連する著作権などの動向を解説する。特に現在とりまとめ作業を行っているベルヌ条約の改定作業の見通しについて紹介する。

  3. 医学出版の電子化の現況、課題、将来像 南江堂 横井 信
    現在の医学出版における著作権の関係のまとめについて述べる。さらに医学出版界において情報のマルチメディア化とネットワーク化によりどの様な変化や問題が生じているのかについて紹介する。

  4. インターネットでの学術発表における著作権と優先権 -インターネット生物・医学国際学会の実験- 三重大学 村瀬 澄夫
    2年前より取り組んできたインターネット生物・医学国際学会の紹介とその課題について話題の提供を行う。

  5. 解剖学学会での学会情報の電子化の経験 札幌医科大学 辰巳 治之
    既に学会の情報流通にインターネットを利用している解剖学学会の経験と日本における学術情報の電子化の状況について述べる。

  6. (指定発言)論文投稿における公表認証局の提案 宮崎医科大学 吉原 博幸
    インターネット上の新しい学術出版のあり方として、論文の公表をpeer reviewとは切り放して認証する機構の提案を行った。これは論文の公表と論文の評価を切り放すことで、評価されない情報の公表の道を作り、医学情報の流通の促進を図る提案である。


6. まとめ

以上述べたように今回は現状と課題の整理を行い、ベルヌ条約などの動きをふまえた上で、来年の医療情報学会までにデジタル情報の学術的流通についてのガイドラインを作成する。

参考文献

1. Jerome P. Kassirer, et al.: The Internet and The Journal: NEJM, 332, 25, 1709,1995
2. 稲葉 裕:医学論文の学術雑誌への投稿について:日本公衛誌、第39巻、第6号、297, 1992
3. 藤正 巌:医療情報学 学会誌はどうしたらよいか:医療情報学、14 (2), 81-83, 1994
4. 名和 小太郎:学術的情報と著作権制度の調和と不調和:http://www.hle.niigata-u.ac.jp/members/teachers/K-Nawa/law-in-cyberspace/science-info_and_copyright.html, 1994
5. 名和 小太郎:学術出版社の集団訴訟:雲を盗む 朝日新聞社:233, 1995
6. 名和 小太郎:評価が先か警告が先か:雲を盗む 朝日新聞社:243, 1995
7. Ronald E LaPorte, et al.: The death of biomedical journals: BMJ, 310, 27, 1387,1995