第19回中韓日産業保健学術集談会に参加して

空閑 玄明 東 敏昭
産業医科大学 産業生態科学研究所

中国蘇州市のBamboo Glove Hotel(竹輝飯店)を会場に2008年5月18日−5月20日に開催されました第19回中韓日産業保健学術集談会に参加して参りました。本会は中国・韓国・そして日本の3カ国の産業保健分野における学術的・人的交流を行い、産業保健衛生の向上を目的として開かれています。今回は中国より70名、韓国より90名、日本より45名、合計205名が参加し、蘇州大学をホストとして運営されました。演題数は基調講演3演題、ワークショップ5演題、特別講演1演題、シンポジウム5演題、口演34演題、ポスター52演題であり、盛況のうちに行われました。

ワークショップ
大会前日に開催されたワークショップは、一つのテーマについて3回の集談会にわたって取り上げ、成果をまとめることを目指しており、今回からは職域における高齢化対策としてのトータルヘルスプロモーションをテーマとして論じられました。現在日本と韓国で急速な高齢化が問題になっていますが、中国においても昨今の政策の影響を受け、近いうちに同様の急速な高齢化が起こることが予見されます。この共通の問題に対して、職域においては健康な労働力の維持・確保についての取り組みが必要であり、トータルヘルスプロモーションがこの3年間のワークショップのテーマとなりました。5演題が発表され、日本からは産業医科大学健康開発科学の大和浩教授が発表されました。大学や企業における禁煙や運動療法によるTHP活動について紹介し、その取り組みの有効性について報告されました。韓国からはカソリック大学のKang Sock Lee氏により、「地域資源の統合による職域のヘルスプロモーションと生産活動のマネジメント」と題し、韓国で行われている禁煙、メンタルヘルス対策、飲酒制限、運動指導、食事指導を含めた包括的なTHPシステムが紹介されました。また、Korean Occupational Safety and Health Agency (KOSHA) のSun-Wung Lee氏が、このシステムを中小企業において導入したところ著名な改善を認め、その有効性について報告されました。中国のYanlin Zhang氏は「HO-1およびNQO1の発現誘導による参加ストレスに対するクロロフィリンの防御」について発表され、緑黄色野菜に含まれるクロロフィリンがシグナル伝達を介して抗酸化作用を有することを報告されました。

開会式
初日は開会式、キーノートスピーチ、特別講演が行われました。開会式では北京大学のWang Sheng氏より挨拶があり、中国厚生省のRui Cheng氏より祝辞が述べられました。また、本会の約1週間前に起きた四川大地震の犠牲者に対して黙祷が行われました。

キーノートスピーチ
蘇州大学はこの地にあった医科大学などを統合してできた、学生総数5万人を超える総合大学で、その医科大学(医学部)は中国における放射線研究・医学研究の中心です。このため、本会のキーノートスピーチでは各国から1題ずつの放射線関連の講演が行われました。中国はJian Tong教授よりラドン曝露の生物学的影響と職業上のHazardについて、動物吸入試験において肺胞の上皮細胞のみでなく骨髄の細胞までDNA損傷を受けることや、ラドン鉱山作業者においてO6-Methyltransferaseがラドン暴露のマーカーとなり得ることなどが報告されました。韓国からSeong-Kyu Kang氏より韓国における放射線被爆状況と健康影響について、原子力発電所周囲の住民のコホート研究と従業員の疫学研究が紹介され、有意な発がんリスクはなかったということが報告されました。そして日本からは大久保利晃先生(放射線影響研究所)が広島、長崎における原爆被害者のコホート研究、サブコホート研究にについて発表されました。乳がん、膀胱がん、消化器がん、肺がんなどの固形がんに加え、心疾患、呼吸器疾患、消化器疾患のリスクが生じること、5mGyを超える放射線暴露によりこれらの固形がんや白血病のリスクが生じることなどが報告されました。
        
          キーノートスピーチ                              会場の様子
  
特別講演
特別講演はキーノートスピーチに引き続き、井谷徹氏より産業保健に関するILOの活動についてなされました。日本や韓国など、東アジアが参加している産業保健活動について報告され、国際的な産業保健活動の動向を知る良い機会となりました。午後には恒例となっている全体の写真撮影が行われました

シンポジウム
翌日のシンポジウムではメンタルヘルスをテーマに3演題の講演が行われました。近年の産業構造の変化、技術の進歩、雇用形態の多様化については各国共通の現象であり、これに伴い、生産年齢人口での自殺者数の増加も各国共通の問題となっています。日本からは福岡産業保健推進センターの織田進氏により、メンタルヘルスに関する同センターと地域産業保健センターの活動状況が報告されました。産業医や労働者の教育や情報提供に関するプログラムが豊富にあり、産業医をはじめ、コンサルタント、産業保健看護職を含めたサポート体制が充実していることが伺われました。韓国からは2演題が発表され、ともに韓国KOSHAが開発したストレス評価プログラム、Korean Occupational Stress Scale (KOSS) およびフィンランドが開発した労働能力を評価するwork ability index (WAI) の韓国版を用いた報告で、製造業と造船業のいずれにおいてもメンタルヘルスと労働能力に関連があることが報告されました。

口演
口演は「化学物質の有害性」12題、「物理的要因」4題、」「筋骨格系障害」6題、「広義の粉じん」5題、「健康増進」7題の34演題が発表されました。筆者も発表致しましたが、前回よりも1演題あたりの発表時間は延長されており、質問やコメントをうけてディスカッションの時間も十分に設けられており、まさに集談会としてふさわしい内容でした。
 
ポスター
ポスター発表は52演題の登録があり、「健康増進」11題、「筋骨格系障害」5題、「物理的要因」13題、「化学的要因」20題、「ストレス」3題であった。残念ながらキャンセルされた演題もありましたが、それぞれのポスターの前で活発なディスカッションが行われていました。また、発表内容に関することはもちろん普段の産業保健活動や研究等、その他多くのことについても意見交換が行われ、産業保健に携わる者同志の親交を深める貴重な機会となりました。来年度の韓日中産業保健学術集談会より、発表者に短時間ですがポスター発表の概要について口演でアピールする時間が設けられることとなりました。今後は、さらに多くの演題が発表され、ますます活発なディスカッションを通してより親交を深められるよう、充実したポスター発表となることが期待されます。恒例の優良ポスターの表彰は、今回もメインバンケットにて行われました。

メインバンケット
メインバンケットには150名以上の参加者が集まり、中華料理と青島ビール、アルコール度数50%以上の老酒に舌鼓を打ちました。懇親会の途中では中国の民族音楽や歌の披露もあり、中国の文化に触れることができ、大変楽しい雰囲気の中での表彰が行われました。
登録52本のポスターの中から、6名の評価委員による選考が行われ、3分野各1題が選ばれました。先端的研究(The most innovative)賞には産業医科大学の神代雅晴教授の「Strategies for the aging workforce in Japan from the perception of the occupational health, safety and ergonomics」、実践応用(The most integrative)賞は中国疾病管理予防センターのXiao-jun Zhu氏の「Prevention and control methods for firefighter’s occupational hazards」、表現(The best presentation)賞には韓国安城大学のKyoung Bok Min氏の「The undesirable changes of industrial safety and health indicies after deregulation in Korea」がそれぞれ選出されました。懇親会終了後には、会場より徒歩数分の桟橋より屋形船でのナイトクルーズがセッティングされておりました。中国蘇州は東洋のヴェニスとも言われている水の都であり、ライトアップされた綺麗な夜景と情緒あふれる街並みに参加者からは感嘆の声が上がっておりました。
 

運営会議
運営会議では3カ国の代表、事務局など中心として、運営方針およびICOHに対する本会議の取り組みについて審議されました。主な決定事項は、(1)2009年の第20回は韓国ソウルで6月4-6日に開催する、(2)ポスターの発表方法を、ポスター発表に先立ち、メイン会場で各自3分(2枚程度のパワーポイント:方法、結果を用意)の紹介口演を行う、(3)参加費を一人200米ドルとすること、(4)2010年は関東地区で獨協大学武藤教授を会長として開催すること、です。また、下記のように2015年のICOH(国際労働衛生学会)の誘致について話し合われました。今回の学術集談会では、2015年の国際労働衛生学会総会の開催地として、ぜひ3国のいずれかが選ばれるように協力についての話し合いが行われました。中国からは代表者候補として開催地立候補の準備を進めている王生北京大学教授他4名、韓国からは同国での開催の場合には主催機関となる韓国産業安全衛生公社(KOSHA)のKang部長と大韓産業保健協会関係者(KIHA)5名、日本からは小木ICOH副会長、大久保ICOH前理事、日本産業衛生学会の担当理事の東を含む6名が関係者となりました。2009年の開催については、同一地域から、日本(福岡)、韓国(ソウル)が立候補し、2003年のブラジル・イグアス総会での投票で票が割れてしまった経験があります。
今回は、アジアからインドが手を挙げていることもあり、3国の内から一国に候補を絞り、開催にあたっては他の2国がこれを支援する体制をとることを検討しました。まずは、韓国の意志決定を待ち、不可能な場合、中国が政府の了解を得て候補となるよう努力することとなりました。本学術集談会のもつ、3国の連携機能が生かされるものと考えます。来年3月の南アフリカ、ケープタウンの総会については、主催国の準備不足、高額な参加費、開催地区の安全性などの問題が指摘されており、地域連携は、対外的にこうした不安を払拭するために有効と考えます。また、開催地決定の投票は、総会に参加した会員によってなされるため、日本からの積極的なケープタウン学会への参加が重要となります。


おわりに
有意義な3日間の会議で、成功裏に行われました。本集談会における3カ国の学術的交流が、年々充実し、産業保健の価値観の共有化を実感致します。さらなる共同研究や社会活動に東アジアの連携が推進されることを信じてやみません。来年は、韓国ソウル市で6月3日から5日にかけて開催される予定です。多数の方のご参加が期待されます。