第18回 日中韓産業保健学術集談会の報告


                名古屋市立大学院・医 労働生活・環境保健学 榎原 毅
                中部大学 生命健康科学部 城 憲秀

第18回日中韓産業保健学術集談会が、2007年5月20日(日)〜22日(火)の3日間、名古屋国際会議場にて開催された。本集談会は、日本、中国、韓国における産業保健の専門家、実務者の学術的交流の場として毎年各国持ち回りで開催されている。今回で18回目を迎える本会は、名古屋市立大学と産業医科大学の主催で開催された。当初、井谷 徹氏(名古屋市立大学医学研究科前教授)を大会長として運営される予定であったが、本年2月の国際労働機関(ILO )労働保護局長へのご転出に伴い、城 憲秀大会長(中部大学生命健康科学部)、榎原 毅大会事務局長(筆者)の代行体制により運営された。

第18回集談会の大会テーマに「Strengthening the primary prevention in occupational health(産業保健における一次予防の強化)」を掲げ、産業保健体制の整備と職域における一次予防活動の活性化方策について議論することを目的に企画された。参加登録者は延べ333名、実参加者は日本123名、韓国92名、中国57名となり、昨年の韓国済州島にて開催された第17回韓日中産業保健学術集談会の参加者を上回る、計272名が参加した。演題数は131題(Workshop, Keynote, Oral, Poster, Symposium含む)で、内容も多岐にわたっていた。

毎年、大会に先立ちWorkshopが企画されている。今年は「筋骨格系障害(Musculoskeletal Disorders(MSDs) )」がテーマであった3ヶ年企画の最終年)。WorkshopWang Sheng氏(北京大学教授)、Jae Wook Choi氏(Korea国立大学教授)、そして森本泰夫氏(産業医科大学教授)が各国運営世話人としてアレンジを行った。

 Workshop報告では、1) 作業関連疾患予防を目的としたワークショップ開催事例に関する報告(日本、三橋徹氏、ひらの亀戸ひまわり診療所)、2) ラットを用いたCu/Zn スーパーオキシド・ジスムターゼによる筋骨格組織への影響に関する報告(中国、Dou Chang、北京大)、3) 立位・座位選択可能型VDTワークステーション方式の有用性に関する報告(日本、榎原毅(筆者)、名古屋市大)、4) 日・中・濠における研修看護師の皮膚疾患・運動器疾患の比較(日本、Derek R. Smith氏、労働安全衛生総合研究所)で、基礎研究から実践応用的な研究・調査まで幅広く報告された。なお、この3年間のWorkshopの成果はIndustrial Health誌よりProceedingが発刊される予定である。

    

   

一身上の都合により大久保利晃日本側代表がご欠席されたため、主催国代表として小木和孝氏(労働科学研究所)より開会の挨拶を頂いた。次いで、韓国代表であるByung Soo Choi氏(大韓産業保健協会)、中国代表Wang Sheng 氏(北京大学)よりご挨拶を頂いた後、厚生労働省労働衛生課長金井雅利氏より祝辞を賜った。

 基調報告は、1) 国内におけるGHSの動向(日本、城内博氏、日本大学)、2) 座位作業者の作業関連運動器疾患に関する報告(中国、Wang Sheng氏、北京大学)、3) 健康・安全文化形成を目指した参加型アプローチ(韓国、Kuck Hyeun Woo氏、Soonchunhyang大学)の3演題で、いずれも最近の産業衛生上の話題を紹介頂いた。特別講演は、井谷徹氏(ILO労働保護局長)より“Toward the Decent Work for All in OSH”と題し、ILOの組織構造およびDecent work戦略に関して最新の話題を提供頂いた。

口頭発表およびポスター発表演題は表1に示した通りであった。産業保健上の重要課題について幅広くカバーされていることが伺える。また、各国の研究発表の特徴として、例えば、化学物質のリスクアセスメント分野では中国・韓国、メンタルヘルスや産業保健サービス・健診関連は日本からの発表が多く、各国が抱えている産業保健上の課題・関心が顕著に表れていた。

 口頭発表会場およびポスター会場ともに盛況で、聴衆が多いときにはメイン会場である白鳥ホール(定員250名)も手狭に感じることもあった。特にポスター発表では短時間の口頭説明時間が設定されており、発表者・聴衆者の間で活発な議論・意見交換が行われていた。

しかしながら、一部の口頭発表およびポスター発表では突然の演題キャンセルもあり、発表順の再アレンジを迫られた場面もあった。演題発表の運用については今後の課題として検討する必要があると思われた。

 懇親会は名古屋国際会議場のレストラン・カスケードにて行われた。懇親会では、毎年恒例となっている最優秀ポスター賞の授賞式が執り行われ、MOST INNOVATIVE賞は、Chung-Yill Park氏(韓国、Catholic Industrial Medical Center)、MOST SCIENTIFIC賞は西村泰光氏(日本、川崎医科大学)、そしてBEST PRESENTATION賞はDe-Huan Tang氏(中国、Beijing Centre for Disease Prevention and Control)にそれぞれ授与された。

 また、名古屋市立大学の学生グループによる、「能」の公演が行われ、仕舞「田村」「巴」、舞囃子「鞍馬天狗」の3演目が行われた。公演後、中国・韓国の方と出演者との記念撮影や談話により、日本の伝統舞踊についての文化交流が行われていたのは印象的であった。

 シンポジウムは大会テーマと同じく「産業保健における一次予防の強化」のテーマの下、1) 職域に於ける健康増進(日本、大和浩氏、産業医大)、2) 鉱山における運搬システムの人間−機械−環境系に関する安全性解析(中国、Guo-xun Jing, Henan Polytechnic大学)、3) 地下鉄勤務者における職務ストレスおよびPTSDに対する介入研究(韓国、Kang-Sook Lee氏、Catholic大学)、4) 労働者における心理社会的ストレスと地域によるサポートの関連性(韓国、Hyeong Su Kim氏、Korea大学)そして5) 労働安全衛生における労使のための実践フィードバック型トレーニングに関する報告(日本、伊藤昭好氏、産業医科大学)の5演題について報告された。いずれの発表とも実践経験に基づいた迫力のある研究報告であった。また全体討議を行う十分な時間も確保されていたこともあり、活発な討論が行われた。

 本会の全体的な印象としては、1) 職業性疾病の基礎的発症メカニズムの解明に関する研究から、実践応用的な問題解決・予防策に関する研究まで、幅広くかつバランス良く取り上げられていること、2) 比較的若い研究者の参加が多く、今後更なる活性化が期待できること、3) 東アジアにおける産業保健に関する第一線の研究者が一同に集う、貴重な集談会としての地位が確立しつつあること、があげられる。日本、中国、韓国は地理的にも隣接した国であるばかりでなく、歴史的にみても、経済、文化的な交流がなされてきている。現在、中国、韓国の経済的成長がめざましく、相互に協力して経済的、文化的な発展をはかる必要性は益々大きくなっていると考えられる。特に、産業保健体制の整備とそれを支える人材の育成は、3カ国連携により推進することが望ましく、本会がその貴重な役割を今後も果たしていくことを期待したい。

                        「健康開発」第12巻第1号 平成19年9月掲載