20回韓日中産業保健学術集談会

20年の節目とこれから〜

去る827日(木)から29日(土)にかけて、韓国ソウル市竜山区(ヨンサング)梨泰院(イテウォン)Hotel Capitalにて第20回韓日中産業保健学術集談会が開催された。
当初は63日(水)から5日(金)の予定であったが、新型インフルエンザの流行で、参加予定者の中に、海外渡航の自粛を要請する所属機関などがあったため、上記日程に延期された。新型インフルエンザによる影響か、日本から56名、韓国85名、中国40名と例年よりは参加者がやや少なかったものの、200人近い参加者があった。

本会は1984年に日本と韓国の産業保健関係者が立ち上げ、2000年に中国が加わり、東アジアの3カ国の産業保健分野に関する学術的、人的交流と相互親善を行い、産業保健衛生の向上に資することを目的として設立されており、本年で20回という節目を迎えた。本会を運営する日本側代表は大久保利晃(放射線影響研究所理事長)、事務局長が東敏昭(産業医科大学教授)、韓国の代表はByung Soo Choi 氏(大韓産業保健協会会長)、事務局はSe-Hoon Lee氏(カソリック大学教授)、中国は代表と事務局長をWang Sheng 氏(北京大学教授)が兼務している。

          
                     各国事務局長(左から)東 敏昭 李 世薫 王 生

今回は、東アジアおよび全ての働く人の健康増進
-Health Promotion for East Asian Workers and All-をテーマに、キーノートスピーチ3演題、ワークショップ5演題、口演17演題、ポスター69演題が盛況のうちに行われた。

 ワークショップ

大会の前日(827日(木))にワークショップが開催された。ワークショップでは1つのテーマを3回の集談会にわたって取り上げ、成果を出すことを目指しており、昨年よりトータルヘルスプロモーション(THP)をテーマとし、今回で2回目の開催となった。
テーマの背景としては、現在、日本および韓国では急速な高齢化が進んでおり、中国においても近い将来には現在取られている政策の影響を受け、高齢化が進むことが予想されるため、高齢化に対して、職域における早期の健康な労働力の維持が求められていることがある。

ワークショップには運営上の総合世話人を置いており、昨年から日本側は産業医科大学の大和浩氏、韓国側よりKang Sook Lee 氏が担当した。今回は5演題が発表され、日本および韓国では、生活習慣(食事・運動)や喫煙対策に関しての実践的な取り組みに関する報告がなされ、中国は、THPに関しての基礎的な報告があった。韓国のJung Rae Park 氏は、職場内禁煙の導入に関する政策の取り組みに関しての報告があり、Kang Sook Lee 氏からは、職域においてHRAHealth Risk appraisal)を導入し、ウェブを用いた健康リスク評価から、健康増進活動を行っていくとの報告がされた。大和氏は、禁煙活動や運動療法を中心とした大学内や企業での取り組みが有効であったことを紹介し、順天堂大学の福田洋氏からは、肥満やメタボリックシンドロームの職域での健康増進に関して、実践的な報告がされた。中国のJiang Chaoqiang 氏からはOHSに基づいたガイドラインにより、労働者の健康増進へつなげていくとの報告があった。


オープニングセレモニー

 2日目の828日(金)。本学会の会長である大韓産業保健協会会長のByung Soo Choi 氏から開会の辞、Korean Occupational Safety and Health AgencyKOSHA)理事のMin-Ki Noh 氏より祝辞が述べられた後、京都工場保健会理事の池田正之氏より、今年逝去された同保健会名誉所長の乾修然氏を偲び、追悼の黙祷が行われた。


    

キーノートスピーチ

本会では、各国で話題となっているテーマに関して講演が行われた。日本側は、今年より国際産業保健学会(ICOH)会長に選任された労働科学研究所の小木和孝氏より、国内のネットワークを活用した産業保健の共有化についての報告があり、現在、主流となっているリスクマネージメントプログラムを、小規模事業所(建設現場、医療施設、農業、自営業)へ、トレーニングプログラムを用いて活用させることで、効果的でより実践的なアプローチができると述べられた。
韓国カソリック大学のHyun-wook Kim氏は、韓国の
忠清南道で、日帝時代に開発され1980年代まで運営されていた石綿鉱山があり、その一帯の住民から無作為に選んだ215名を調査した結果、110名から石綿肺や胸膜プラーク、肺線維化などのアスベスト関連呼吸器疾患が認められたという報告があった。中国、中山大学のWei-Qing Chen 氏からは、中国にある海底油田の労働者間の筋骨格系障害(MSDs: Musculoskelethal disorder)における職業上のストレス影響と対処様式についての調査研究の結果、労働者へ職業上のストレスが有意に確認され、その影響は摂食行動などで加減されていると報告があった。各国から活発な議論が行われ盛況であった。

 

ポスターセッション

 キーノートスピーチに引き続き、ポスターセッションが開催された。昨年の運営会議にて、ポスターの発表方法をポスター掲示に先立ち、メイン会場にて紹介口演を行うことが決定され、今年初めて開催された。発表方法は、3枚以内のパワーポイントスライドを用意し、各自3分以内で紹介口演を行うものであった。3分以内に方法、結果を述べる演者や、ポスター紹介と位置付けて目的と方法のみを述べる演者など様々で、大変ユニークな試みであったと思われた。
ポスターセッションは計69演題と前回よりも多くの登録があった。
「産業保健サービス(Occupational Health Service)」15題、
「職業性肺疾患(Occupational Lung Diseases)」9題、
「健康増進、メタボリックシンドローム(Health Promotion, Metabolic Syndrome)」13題、「職業性ストレス、メンタルヘルス(Occupational Stress, Mental Health)」9題、
「中毒・職業性腫瘍(Toxicology, Occupational Cancers)」11題、
「生理的要因、筋骨格系障害(Physical Agents, Musculoskeletal Disorders)」6題、
「医療従事者・安全衛生(Health Care Workers, Occupational Safety)」6

残念ながら、キャンセルされた演題もあったが、それぞれのポスターの前では活発な質疑応答が行われていた。ポスターセッションの利点として語学力の壁があっても発表しやすく、議論に比較的ゆとりが持て、発表内容以外にも各々の産業保健活動や研究、その他多くの意見を交換することができるため、参加者間の人的交流を深める機会となっていた。また中国からの演題数は計8題であり、やや寂しい印象があった。新型インフルエンザによる影響や、中国でのポスターセッションの位置付けが十分に意義づけられていない点があげられるが、今回から始まった3分間の紹介口演の追加で、ポスターセッションの意義の向上を図りながら、演題数の増加を期待したい。

 本集談会では、ポスター発表を促進するため3人のポスターアワードが選出、授与されている。今回は、3分野各1題が下記のように選出された。

The best presentation award(表現賞):幸地勇(産業医科大学)
Effect of smoking and obesity on pulmonary function and makers related to inflammation, and allergy, etc.: A Cross-sectional and Longitudinal Study

The most innovative award
(先端的研究賞):Ling MaoShanghai Occupational Diseases Hospital
Characteristics of 255 cases of welder’s pneumoconiosis in Shanghai

The most integrative award
(実践応用賞):Ki-Woong Kim
KOSHA
Proteomics identification of styrene exposure-associated proteins in serum of workers exposed to styrene

これらの優良ポスターの授賞式は、後述する懇親会のメインイベントの一つとなっている。



口演

ポスター発表に続いて3会場に分かれて口演発表が行われた。
「産業医(Occupational Health Physician)」5題、
「中毒学(Toxicology)」6題、
「生理的要因、職業性ストレス、最近の課題(Physical Agents, Occupational Stress, Miscellaneous)」6

口演内容それぞれが興味深いものであり、前回から十分な討議が行えるよう1演題の時間が長めに設定されているが、様々な内容の質問やコメントがあり、活発な討議が各会場で展開され、大変有意義なものとなった。

 

懇親会

 同日の夕刻より懇親会が本会場であるHotel Capitalにて行われた。本会では、2カ国での発足時から会員の強い理念もあり、各国相互の交流を目的として開催されている。懇親会には150名以上が参加した。懇親会では、マジックショーや、KIHAKorean Industrial Health Association)の職員によるアラブ・中東諸国を発祥の地とする民族舞踊の「ベリーダンス」や「サムルノリ」と呼ばれる朝鮮の伝統楽器であるケンガリプクを用いた韓国の音楽が演奏された。一つ一つの演技や演奏は完成度が非常に高く、アマチュアの方々が披露しているとは思えぬものであり、韓国の文化を大いに満喫できた。また各国の代表により、それぞれの国の歌を歌うという企画も行われた。懇親会に引き続き、恒例のカラオケセッションも開催されたが、各国ともに盛り上がり、3カ国の交流に非常に有用な機会であった。

   

特別講演

 最終日の829日(土)に、韓国キムチ博物館のSu Ji Shin氏より「韓国文化とキムチ」についての特別講演が行われた。韓国の伝統や文化や、キムチの種類の多さとそのヘルシーさなどについて説明があり、韓国について詳しく知ることができた。




シンポジウム

 引き続き同日に開催されたシンポジウムのテーマは、「産業ストレス(Occupational stress)」で、日本からは、東京大学大学院教授の川上憲人氏、産業医科大学の廣尚典氏、福岡産業保健推進センターの織田進氏、韓国からは、延世大学のSei-Jin Chang氏、梨花女子大学のJae-Hong Ryoo 氏、Inha大学病院のShin-Goo Parkの各氏が発表を行った。日本側はメンタルヘルスに関するガイドラインの説明や現状、自殺者の推移、企業におけるメンタルヘルスサポートに関する報告があった。韓国側は、メンタルヘルスの現状と、KOSHAが開発したストレス評価プログラムKOSSThe Korean Occupational Stress Scale)の説明・利用に関しての報告があった。相互に意見交換を行うことで、現状を理解することは、各国にとって非常に意義のあるものであった。

 

おわりに

 ワークショップを含め3日間という短い期間であったが、非常に有意義な時間を過ごすことができ、大盛況のうちに幕を閉じた。新型インフルエンザの影響で、日程延期はあったものの、200人近くの参加があり、各国ともに活発な意見交換がなされていた。特に今回は20回目という節目の年でもあり、非常に意義のあるものになった。本集談会のこれからのさらなる発展と東アジアの連携が推進されることを信じてやまない。第21回は、栃木県宇都宮市で2010610日から12日にかけて開催される予定である。是非、多数の方の参加を期待したい。


ワークショップ、キーノートスピーチ、特別講演、シンポジウムの演題名および演者


      産業医学ジャーナルより抜粋  産業医科大学作業病態学研究室 黒木和志郎